var:Int!が読んだ本の中でも、特に歴史オタクの方々へおすすめしたい本を勝手に紹介する、おさかな本棚シリーズです。
第二回はこちら!
佐々木隆著『明治人の力量』
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基本情報
出版年:2002年8月10日
出版社:講談社
著者備考:東京大学文学部国史学科出身、同大学、大学院にかけて伊藤隆に師事、現在は聖心女子大学文学部史学科教授。
概要
日本国憲法発布から明治天皇の崩御までの日本政治史を描く。題名の通り、明治日本の政治史の様々な側面を手厚く描いていく作品。
中でも、議会や内閣、そして元老のパワーバランスがどのように機能し、変化していくのかを知る第一歩にオススメだ。
特に、一冊丸ごと明治史であり、登場人物も限られてくるため、その分人物の関係性が様々な紆余曲折を経て、大きく変化していく様を追う醍醐味がある。明治二十年代の初期の議会政治の破茶滅茶な展開など、非常に面白い。どうして明治天皇が「和協の詔勅」を出すに至ったか、その泥沼の戦いを目撃しよう!
メインの登場人物はビックネームばかりであること加え、人物を取り上げる際にちょっとした逸話や背景を含めて描いているため、興味を持ちやすく高校日本史程度の知識があれば分かる。黒田清隆が木戸孝允に簀巻きにされる逸話とかが載っている。
だが、一部の政治家のオタクは著者の批判に耐えられるかが問題。特に伊東巳代治や松方正義などは、登場するたびに何かしら批判的な一文が差し込まれるような徹底ぶりだ。一口に批判といってもそんなレパートリーがあるのか……。
しかし、先生は松方正義、それに通じて明治時代のジャーナリズムの研究をなさっていた方なので、松方への批判はある意味愛ゆえ、なのかも……🤔
個人的な感想
本書の最大の特徴と言えば、人物の描き方にあります。
人物を描く時、学者の方が書かれる真面目な一般書では基本的にその人物の政治上の行動だけを描いて終わりというものが多いのですが、佐々木先生の場合はその人物の行動だけでなく、人柄や言動に至る思想を一体に描こうとする熱意を感じるのです。
伊東巳代治への批判ぶりは前述した通りなのですが、その一方で彼の生き方を一つの「美学」だったとも表現しており、なかなか複雑な人間味を味あわせてくれる、芳醇な描きぶり。
実はこの佐々木隆先生、国立国会図書館の憲政資料室にある資料全てを読んだ男、と謳われるほど、公文書だけでなく書簡や蔵書などの私文書の研究にも熱心に打ち込んだ人物。
そうして、彼らの交わした言葉や遺した思想に人一倍浸ってきた先生だからこそ、査読のない一般書では色々言いたくなってしまう……のかも。
また一方では、内閣の動きを詳しく描いている点でも勉強になりました。
政治史というと、大臣級の政治家の動きが中心となって、省庁の働きというものはわかりにくい本が多いのですが、こちらの本では、省庁、官僚組織の動きが結構詳しく書かれており、勉強になります。
その他、同時代の文化人の目線から、政府の動きを描写するのも、「時代性」や「階級差」を感じさせてくれる良い構成。
分厚い分、明治という時代の政治、そしてそれに関わる人々を、多角的な視点で豊かに描く、大河のような本でした。
学者の方による、政治史を真面目に描いた本は、やはり政治家の動きに注目して硬い内容ばかりで、面白くない……と思われる方も多いかもしれません。しかし、そうした不安を持った方にこそオススメしたい一冊目!
合理だけでも、感情だけでも割り切れない、政治家の人間味溢れる姿を含んだ明治政治史の大著、乞うご一読。
……と、言いたいところですが、これらの論文は1970年代後半、佐々木先生が昭和政治史を研究なさっていた一環の内に発表されたものであり、先生は特別昭和軍部に興味のある先生ではないと思われる。
よって、オタクに百ある悪癖の一つと謂われる、ある道の大家が自分の興味のある分野にちょっと触れているくらいで大層騒ぎ立てて祭り上げるような軽薄なムーブは控えましょう(自戒)
オススメしたい人
