石井寛治著『日本の産業革命』


 var:Int!が読んだ本の中でも、特に歴史オタクの方々へおすすめしたい本を勝手に紹介する、おさかな本棚おすすめ本メモシリーズです。
 第三回はこちら!

石井寛治著『日本の産業革命』

    基本情報
    出版年:1997年8月25日
    出版社:朝日新聞社
    著者備考:東京大学経済学部出身、同大学院博士課程退学、その後東大経済学部で教鞭を取り東大経済学部の教授に就任、2004年に退任。

概要
 本著は、一般向けに書かれた経済史の本。
 特に日本経済史の激動の変革、勃興期に当たる幕末日本から日清、日露戦争期をメインテーマに据えているため、爆発的に広がる物語は、読み物としても中々面白いところ。

 明治初期、銀行が各地方に誕生し、松方デフレによって集中した資本が銀行に流れ、その銀行の投資によって明治20年代からインフラ(電力や鉄道)や軽工業と言った様々な産業が生まれ、そして日清戦争を期に日本の企業が本格的に海外へ進出するようになり、そして日露戦争で遂に悲願の重工業が完成し……。

 そうした、日本の産業がどのような道筋、連鎖で発展していったのか、という物語を、企業や経営者の言動を通じて知ることができる構成になっている。

 石井先生は、(おそらく)唯物史観に近しい立場をとって居られるためか、経済と政治(特に戦争)との関係を非常に手厚く語られているのも、引き込まれる部分。
 政治史を知っているとなお楽しいタイプの本……だが、そこまで詳しく分からずとも、内容が面白くそこまで苦痛を感じずに読めるので、気にするほどではない。

個人的な感想
 さて、先程から自分はこの本を面白い面白いと何度も言っているわけですが、ではなぜ本書の内容が面白いと感じるのかというと、それは「個別事例が詳しく載せられている」からです。

 例えば、「日清戦争を期に日本の企業が本格的に海外へ進出するようになり」という一文をとってみましょう。
 では、一体何故、日本企業が海外へ進出するようになったのか?
 その一端を本書の内容に沿って説明すると、「日清戦争で多数の汽船を緊急輸入した日本郵船や大阪商船は、終戦後、船を持て余すことになる。持て余した船から、二社は新たな航路開拓を模索するようになり、政府から特定航路の支援金を得て、他国の港に進出していった」ということになります。

 そういった、業界や市場の変化が、その業界の企業の視点によって語られるのが、経営史学のオタクには、とても嬉しいポイント。
 もう推しが登場するたびに喜んで読んでいました。ので、推しの企業がいるオタクには特にオススメしたい🥺

 また、新聞でのインタビュー、評伝や回顧から経営者の主張が乗っているところ、及び、文化面に関する価値観の変動を追っているところも、その時代の空気を感じられて、本当にのめりこませるPOINT……♥️
 やはり、こういった「時代感」を知れるのは、その時代そのものを描きたい創作オタクにとって、ありがたい部分です。

 石井寛治先生の手掛ける通史本は、こういった、経営者、財界人といった人間そのものの言動を追う、歴史学的な手法を取り入れてくれているため、読み物として感情移入しやすく面白い所が本当に大好き。
 日本近代経済史の教科書は、私もいくつか(三和先生と武田先生のもの)持っているのですが、それでもやはり、教科書よりも、石井寛治先生の本著が、一番自分に経済史の面白さ、経済活動を通じた社会の変革という魅力を教えてくれました。

 1990年代後半の作品ということで、現在の通史解釈とは異なる部分もあるかも知れませんが……、人間もまた鳥と同じ如く、生まれて始めて見た”もの”に一生の敬慕を覚えるもの。
 自分に始めて「経済史学って面白いな」という気づきを与えてくれたこの本、ぜひ皆さんもご一読ください。
 
 なお石井寛治は、2012年にも経済史の通史本、『帝国主義日本の対外戦略』を出しています。
 この本も本当に面白い、の、ですが……太平洋戦争開戦まで取り扱っている本なので……面白くてのめりこめる分、どんどん財界が窮地に陥るさまには、心が……鬱に……。
 こちらの本の趣旨、自分の理解では、「明治から昭和初期にかけて、日本の財界人が、どのような思想に基づいて、対外戦略(いわゆる帝国主義)を選択したのか」というところにあると思っているのですが、初手から「勿論読者は全員マックス・ウェーバーの本を教養として読んでいるよね〜」という圧を与えてくるぐらい、本格的な研究書なので初心者の方には到底おすすめできません。
 しかし、背伸びがしたい、自分のようなひねたオタクは書いなさい。後悔しないから。心をぐちゃぐちゃに……され……行……。

 

オススメしたい人

  • 経済史の中で様々な業界の歴史に触れてみたい人
  • 推しが社会の中でどんな立ち位置にいたのかを知りたい人