舌に自信ありと自負した鉱山の選んだ店だけあって、八幡の頼んだサンドウィッチは絶品であった。歯ごたえの良いレタスはもちろんだが、挟まれたビーフも塩加減が絶妙で、上に乗った二色のチーズと琴瑟相和し、複雑かつ豊かな風味をもたらしている。そして時折挟まるピクルスが舌の上で爽やかな酸味を加えてくれる、当然こちらもまさしくちょうど良い塩梅だ。濃厚な味付けながらも、爽やかな刺激がプラスして、飽きの来ない魅力的な形に調和していた。
運ばれてきた当初は思っていたよりも大ぶりな姿に少し腰が引けたが、いざ食べてみると、むしろもっと食べたくなってしまうほどである。八幡はすっかりその味を気に入ってしまっていた。
「どうです?たとえ官営様でもこのくらいのサンドウィッチは中々食べられないでしょう」
八幡は口元を抑え、自慢げな鉱山の言葉に頷く。
「うぅ、あい。おいひいれす。ほん…とうに!」
興奮のあまりか、飲み込みながら答える八幡に鉱山も満足そうに頷いて自信のビーフステーキに向かった。黒いプレートの上には、こちらもまた大ぶりなビーフステーキが乗っている。ステーキの上には白く淡く溶けていくバターがゆっくりと傾き、備えつきのソースは飴色に輝いて、隣に鎮座する色とりどりの野菜と好対照をなしている。
八幡はそれを見つめて、今からでも頼んでしまおうかと一瞬逡巡したが、首を振った。調理する時間を含めると、さすがに電車に間に合わなくなるだろう。
すると鉱山がにやにやとしながら八幡を覗き込んだ。
「おいおい!なんだ?物欲しそうな顔してんなぁ」
「さ、流石にそんな、下品な顔はしてません」
気恥ずかしさも相まり、八幡は少し赤くなって眉根を寄せた。鉱山はビーフステーキを八幡の方に突き出す。
「え」
「官営様だからなぁ。そんな顔されたら、下々のものとして差し出さずにはいられませんよねぇ」
そして自分はステーキについてきたサラダの方を食べ始めた。白磁の器に盛られた鮮やかなレタスが、クラッカーと共に歯切れのいい音を響かせる。八幡は申し訳なさそうに鉱山を見る。
「そんな、お腹減ってるんでしょう、貴方が召し上がるべきものを……」
「誰が全部食っていいって言ったんだ?貸してやるのは俺がサラダ食い終わるまでだ!とっとと食え」
八幡はそのぶっきらぼうな言葉に感謝しつつも、ステーキの上のバターのかけらをナイフでとって肉の端に塗った。一口分の大きさに切り取ると、桃色がかった絶妙な焼き加減の断面から、輝く肉汁が滴る。八幡は急いで肉をソースにつけて頬張った。柔らかな肉は確かな弾力を持ちつつも、旨味の詰まった肉汁を迸りながら、ゆっくりと口の中で解けていく。八幡は目を瞑り、感無量の心持ちでそれを味わった。
「返しな!ボーナスタイムはもう終了だぜ」
鉱山はステーキの皿を自身の元へと引き寄せた。見ると、すでに山盛りになっていたレタスはすっかり無くなっている。
「本当に素晴らしい料理です。鉱山、貴方は実に素晴らしい店を見つけられましたね……」
「真に学問を極めた道士こそ山に潜るってな……でかくて内装の派手な店に行けば美味いものが食えるってわけじゃない」
鉱山は銀のフォークを煌めかせて自信げに語る。八幡は帝都の生きる人間が少し羨ましくなった。多くの飲食店に溢れかえっているからこそ、その玉石混合の中から、こうした璧の如き店を見つけた時の感動はひとしおだろう。自分も、北九州に帰ったら、もっと飲食店を歩き回ってみようか、とも考えた。
再び自分のサンドウィッチに向かって真剣な面持ちで食べ始める。この店の場所はきちんと覚えておこう……。
「そういえば、せっかくですから……製鉄合同の話もしましょうか」
八幡は含んでいたサンドウィッチを飲み込んで話しかけた。おしぼりで手を拭き、紅茶を一口含む。
「嘘だろ?こんな美味い飯の前で仕事の話かよ?」
鉱山が睨みつけるようにカップを傾ける目の前の相手を見た。八幡は平然とした顔でカップをソーサーに戻す。
「美味しいご飯があるからですよ。普段よりもずっと、心に余裕があるでしょう」
微笑みかける八幡に、鉱山も渋々食器を置いてソーダ水を飲んだ。置くや否や、キッパリと自分の意見を八幡にぶつけた。
「工業倶楽部や日本鋼管の奴らがどれだけ口うるさかろうが、俺の知った事じゃねぇ。大陸の盗狗どもに首輪がつかねぇなら俺は合同には加わらん」
「厳しいお言葉ですね。しかし、お気持ちはわかっていますよ」
大陸の盗狗──三井鉱山の悪辣な罵倒は、三菱や満洲鉄道の管理する、漢地や朝鮮半島の製鉄所に向けられたものだろう。
近年の銑鉄市場では、インドや朝鮮半島などの植民地で生産された安価な銑鉄の流入が、第一世界大戦以降の需要の低迷に相まって、凄まじい価格の下落をもたらしていた。泣きを見たのは、以前から銑鉄市場を牛耳っていた三井物産だ。彼は第一次世界大戦まで、銑鉄の輸出入を一手に引き受けていたのだが、重工業方面の植民地開発に乗り遅れた結果、他財閥の参入によって市場のシェアを大きく落としていた。この上に銑鉄市場の低迷も相まって、鉄鋼業方面の長き不振に頭を悩ませているのだ。その責任の一端を担っている三井鉱山としては、”海外”に位置しながら、その”海外”に向かわずに国内の銑鉄市場に向かってくる三菱製鉄たちが忌々しくて仕方がないのだろう。いくら日本の労働者の賃金が国際的に低い水準であるとはいえ、流石に植民地の低廉な人件費には勝てない。人件費の差は、原料調達費と相まって、経営の収支、ひいてはその商品の値に明らかな差を生み出す。
八幡は机の上で手を組んだ。
「しかし、彼らがわざわざ大陸に製鉄所を建設したのは、国内で生産するよりもずっと安い銑鉄を生産するためです。わざわざ値を釣り上げ、あるいは自分の販路をせばめるような製鉄合同には与しないでしょう」
「あの意気地無しどもが、大陸に逃げやがって……」
鉱山は机を叩いた。辛辣な言葉が止まらない。石炭においても、鉄鋼業においても、明治初期から国内に基盤を置いてきた三井鉱山としては、植民地経営によって台頭してきた後発の財閥たちが気に食わないのだろう。もっとも、それは国内の資源を彼ら三井財閥一人が独占してきたことと裏表の関係に有るが。彼の言葉は嫉妬とも捉えられるものであった。
しかし、この状況が止まらない背景には、国内の製鉄所の深刻な不足があった。現在、日本国内においては、製鉄業者と製鋼業者はその規模において著しい差が生まれている。国内での需要と供給の差は、製鉄側が4の銑鉄を求めるのに対して、生産される銑鉄はたったの1しかないのだ。こんな状況では当然植民地の銑鉄輸入も止まるわけがない。日本国内における鉄鉱山の不足を補うには、大陸や半島の豊富かつ良質な鉄鉱山に向かう他なく、そして鉄鉱石のような重量級、かつ多くの不純物を含む原料を運ぶくらいなら、大陸でそのまま加工して持ってくる方がずっと安上がりだ。
「鉄鋼一貫体制を貫く、愛国心あふれる貴方には、彼らを責める権利があるのかもしれません。しかし、それもまた三井という素晴らしい大厦にお住まいの貴方だから言える言葉です」
八幡は鉱山の睨むような視線を受けながらも紅茶を啜る。
鉄鋼一貫体制と愛国心──八幡の皮肉の意味は政府の発言にある。農相、加えて軍の一部は、国の政治的、経済的観点から長らく鉄鋼一貫体制の普及を仕切りに訴えてきた。政治的な観点での意見はもちろん兵器開発の要である鉄鋼を他国から輸入することに対する危機感からくるものであり、経済的観点からの意見は国家歳入の深刻な一面に関わっている問題である。多くの産業が輸入超過に陥っている厳しい状況の中、特に鉄類は国家歳入の3割を占めているのだ。銑鉄生産もあまり他国の土地に依存したくないのだろう。朝鮮半島はともかく、大陸は日本の植民地では無い以上、そこまで頼りにするべきものでは無い。特に大陸では政治的動揺でいつ何時大規模な政治変動が起きるか分からないのだ。もし強大な政権がうまれれば、当然そうした製鉄所は収奪される可能性が高い。無論、そうした政治変動を防ぐために軍部や政府もいろいろ手と金を回しているのだろうが……。
しかし、その政府が、震災復興に向けて大量の資材を英米から買い入れ、加えて一時的に鉄鋼への関税を撤廃したことは皮肉である。第一次の被害から復興していた東欧や、依然として市場の恒星たるインド銑鉄の流入によって、日本の銑鉄業界では10社以上が廃業に追い込まれた。生き残った製鉄所においても、政府が独自に買い入れた大量の鉄鋼資材のストック──政府が値段を独自に決めた結果、市場よりもかなり高い値段で仕入れることになり、このまま売っても大損失を産むということで、倉庫へ寝かせる羽目になっていた──彼らがいつ市場に叩き売られるものか怯えて、生産を手控えることになったのだ。
政府は銑鉄市場の脆弱性を嘆いているが、正直に言えば、彼らの中途半端な政策も、銑鉄市場を振り回し悪影響をもたらしている……長らく政治に振り回されてきた八幡としては、政府の虫のいい態度に少し無責任な一面を感じずにはいられない。
「銑鉄市場の低迷が続く限りは、製鉄所が国内に建設されることは難しいでしょう。製鉄所を作るよりも銑鉄を買う方が安いのであれば、そこに甘んじたがるのは理解できます。この長い不況の中ではどこの業者も資金がないのですからね……」
八幡は目を伏せて首を捻った。鉱山は深いため息をついて首を掻いた。
「八幡、じゃあおじさんと一緒に製鉄所作らないか。東洋製鉄が昔新潟に製鉄所作るとか言ってただろ」
紅茶を置いて苦笑する。
「それは私を説得する以前に、貴方のご親類が納得するか、疑問のある内容ですよね……」
鉱山はつまらなそうに再び八幡を睨んだ。銀行と三井合名は間違いなく反対するだろう。
「つめてぇな。製鉄所は作らないわ、製鉄の販売協定も結ばないわ……すくなくとも後者はお前の上司の農相と、和田の時以来の恩師の願いだろうが、大人しく従えよ……」
「言っておきますが、製鉄合同を訴えているのは高橋”元”農相の政友会や、”日本鋼管の”今泉君であって僕ではありません。そして、僕自身は製鉄合同にも、そして貴方のカルテルにも前向きではありません……今はね」
八幡はキッパリと言いきった。
政府は昨今、緊縮政策を進めようとしている状況にあって、政府財政から八幡を切り離そうとしていることは、八幡自身一番よく知っている。しかし八幡の成績自体は好調であり、決して政府の赤字部門と言われるような存在ではないのだ。一方で八幡の経営を民間に移せば、特に経営陣周りの人件費の膨張避け難く、民間で実現できなかった国家向けの採算を度外視の製品開発は難しくなるだろう。
最も、八幡としては、そうした国家の動きを理解できないわけではない。政府が国内製鉄業者一丸となって、経営の脆弱性を克服してほしいと願うのは、様々な面で必然のことだとも理解していた。
しかしもとより日本の製鉄業者は多くが国内しか知らないのだ。大陸において日本財閥の経営する製鉄業者でさえも国内にやってくる。国内市場での闘争こそが世界である彼らにとって、昨日まで商売敵であった者と一丸になって他国に対抗しろと言うのは難しいだろう。彼らは、あまりにも資本的に独立しすぎているのだ。紡績や石炭産業のように、国内市場の狭さのあまりに、他国への輸出を目指して発展した明治初期の産業と、輸出どころか国内供給もままならないまま発展した鉄鋼業は、業者間の意識の持ちようが大きく異なっている。業者同士の関係性や連携がほとんど築かれていない今の状況では、いきなり合同など望めるものではない。
「あぁ、本当に不孝なやつだなお前は!」
鉱山の呆れたような声も、八幡には無風だ。淡白な目で鉱山を見返した。
「僕が従うのは僕の長官、そして”現”内閣、ひいては天皇陛下の命であって、それ以外の誰にも仕えてはいません。……それに鉄鋼合同は高橋”元”農相の置き土産であって、今の片岡農相は時期尚早論者でしょう、貴方と同じく」
鉱山は肩をすくめた。五年前、高橋是清の提言が発端となった製鉄合同論に対して、政府の技術官僚は皆その意欲を見せてこなかった。八幡製鉄所の長官に至ってははっきりと難色を示している。合同に際した八幡の民間への払い下げにいたっては、「有害無益」だとはっきり批判したほどだ。
そして八幡自身も、合同論が現実的でないことをよく知っている。
「製鉄合同論を真面目に訴えているのは東洋製鉄の郷社長率いる工業倶楽部の一部と今泉君の日本鋼管くらいのものです。貴方だってカルテルの動きには賛成でも、合同は正直言ってお断りでしょう……少なくとも、ご自身が最も有利な位置に立てない限りは」
「当然だ。誰がこの国で一番の民間銑鉄業者だと思ってる?第一あいつら二人が必死になってんのは、自分のところが経営難だから、国やら俺たち財閥の血を吸いたいだけだろ」
またもや辛辣な評価だ。八幡は眉をひそめる。東洋製鉄も、日本鋼管も、八幡にとっては決して赤の他人ではない……。
「ま!あいつらが俺に身売りするってんなら、養ってやってもいいがねぇ!」
鉱山は大笑して、皿に残っていった野菜の破片を口に放り込んだ。
「合同だなんてまどろっこしいこと言わず、正直に俺のところへ来れば良いのによ……」
フォークを振りながら、ため息をつく鉱山に八幡も目線を横へそらし、沈んだ声で応える。
「仮にも田中家の独裁体制の下にあった釜石先生と違って、彼ら二社の資本体系は相当複雑でしょう。貴方のところへ行くにしても、株主や取引先の銀行がなんというか、難しい問題です……」
東洋製鉄と日本鋼管──製鉄合同論に最も積極的であった、この二社に共通する問題は厳しい経営と脆弱な資本関係であった。三菱や三井のように銀行を中心とする財閥の資金供給体制、あるいは台湾銀行や軍部といった外部の強力な資金供給源を持たない彼らは、経営が危機的状況に陥っても、その危機を打開する資金ですら満足に得ることができないのだ。要するに、彼らには、十分な金を提供してくれる銀行がない。首が回らないのだ。二年前、巨額の負債によって経営を破綻させた釜石と同じように、彼らも巨額の負債を抱えていて、常にその返済に追われているがために満足な経営など到底できていないのだ。加えて、彼らは官営から払い下げを受けた田中長兵衛親子の独裁的資本によって経営されていた釜石と異なり、多くの資本家が共同で立ち上げた会社であったから、経営上には様々な勢力を抱えている。いきなりどこかの財閥に身売りしたり、特定の銀行に依存しだすことは難しい話だ。
彼らが製鉄合同へ必死にならざるを得ないのは、そういった厳しい経営状況があった。対して、三井や三菱のような資金体制を持つ製鉄業者からすれば、別に他人の金など必要とはしていない以上、経営に必要なものは政府からの関税保護や業者間の協定だけであった。資金を融通し合うための合同などする必要がないのだ。合同をすれば、経営体制も相当再編されることになる。二年前に釜石を買収したばかりの三井鉱山にとっては、せっかく自分の思うがままに経営できる製鉄所を手に入れたばかりだというのに、他人から口を出されるような経営体制に与したいとは思わないだろう。
「お前なぁ、そうやって同情する余地があるのになんでカルテルに反対してんだよ」
鉱山が頬杖をついて八幡を覗き込む。
「戸畑が可愛そうじゃあねぇかよ、えぇ?それに今泉だってそうだよ。技術者に経営は難しいだろうなぁ……」
人の悪い顔で口角をあげた。しかし、八幡は顔を上げて冷ややかに見返す。それとこれとは話が別だ。
「貴方はそうやって、まるでカルテルを形成すれば万事が解決するかのように喧伝されるが、僕はその前提そのものに懐疑的なんですよ」
「なんだよ。俺が自分の都合の良いように協定結ぶんじゃねえかって心配してんのか?おいおい、そりゃ流石に──」
手を降って笑う鉱山に、八幡の冷徹な言葉が突き刺さる。
「それ以前の話ですよ。そもそも他の業者が”三井の”カルテルに参加するのでしょうか?」
鉱山が一気に嫌そうな顔をした。身を起こすと、口をとがらせて反論する。
「だから!お前に加われっつってんだよ!流石に業界の一位の官営が居れば三菱や住友の奴らだって多少話は聞くだろ!」
「むしろカルテルなら彼らこそ話を聞かないでしょう……」
八幡は冷めつつある紅茶に口をつけた。
「あぁ……八幡君は本当に難しいことを言うねぇ、おじさん困るよ。もっと労ってくれないかな。年寄りなんだから」
貴方、さっき外で歩いている時おっしゃった言葉を忘れましたか──と言おうとして、八幡は飲み込んだ。こうやって冗談を挟むことで話をそらそうとするのだ。ずるい大人は……。
カップを置くや、八幡は至って真面目に言葉を継いだ。
「カルテルを組むのに最も必要なことは、信頼と、そして市場の独占による制裁です。しかし、三菱には当然ながら重工が、住友には海軍を筆頭とする、彼らにしか作れない、鋼管とそれに準ずる多角な製品を求める顧客がいる……そして、それは私も同じ」
揺るぎ難い販売先を持つ業者にとっては、カルテルの独占など恐るるに足りない。官営の八幡には国家という絶対的な販路がある。三菱は何があっても身内から優先して鉄鋼を購入するだろう。住友も商売敵筆頭格であった日本鋼管が落ち目にいる今、三井と組むとは思い難い。三井系列はたしかに銑鉄業のみならず、鋼材市場に大きな影響を持っているが、彼らの主力は一般鋼材であって、住友が得意とする特殊鋼材ではない。それに第一次世界大戦後の経営多角化を既に成功させていた住友と異なり、三井は今まさに多角化に勤しんでいる最中だ。三井は経営面で住友にかなりの遅れをとってしまっている。
「彼らは貴方のカルテルに加わるよりも、そのカルテルに対抗する方を選ぶでしょう。そして私も、彼らとは別の観点からカルテルの形成そのものにあまり良く思っていません」
三井は確かに、規模においては八幡に次いで業界二位の位置についているが、その牙城には様々な問題点が含まれていた。他の財閥からすれば、その牙城に与するよりも、それを脅かし自らが二位となる願望を抱いているのだろう。
鉱山はつれない態度の八幡にしびれを切らして机をたたいた。
「お前なぁ!製鉄合同の話をふったのはそっちだろ!俺をいたぶるために話ふったのかよ?」
その言葉を聞き、八幡も姿勢を正して鉱山に向き直る。
「すみません。ちょっと余計な話をしすぎてしまいましたね。しかし……私が今、貴方の意見を否定したのは、むしろ貴方にはもっと別の期待しているからだということをご理解ください」
天井のランプに輝く八幡の射干玉の目が鉱山を貫いた。