昼過ぎの銀座通りには昼食を終えたサラリーマンたちが足早に街路を行き交ってゆく。関東大震災以降、銀座は食の大通りとして大繁盛していた。所々には髪を短く切りスカートをなびかせる婦人の姿も見える。銀座のカフェーで食事するのは、最近一種のステータスとなっているのだ。雑誌上の有名人たち──文筆家たちもこぞって訪れると言うので話題になり、最先端のものを追う”モダンな”若者にとってまさに流行の中心地と化している。
「震災以来、ここは復興どころか昔以上に元気ですね」
「そうだな。おかげでうちの三越も毎晩うなされてるよ」
長らく経営不振に陥っていた三越は、驚異的な精力を誇った経営者、日々翁助によって近代化をなし、何とか幕末以来の危機的な経営を立て直すことに成功した。しかし大正に入る前年、彼はその二十年近い過労が祟って終に気を狂わせてしまったのだ。日々が引退してからというものの、三越は再び成績を失速させ始めている。そして現在彼を押しているライバル筆頭が同じく日本橋に位置する高島屋であり、次いで銀座六丁目に位置する松坂屋もまた商売敵の一人であった。
「三越さんですか。評判は良いと聞きますが……そんなに大変なんですか」
「百貨店はどこがやっても大概成功しないんだよ……今はどこも不況で金払いも悪いし、なおさらだ」
第一次世界大戦以来の不況の風は関東大震災でなお一層深まった。自殺、心中の話題が新聞の三面記事に並ばぬ月は無い。大学を出てもなお就職先の無い若者は大都市にあぶれ、知識人層に位置する青年へ共産主義の影響が強まっているのは、彼らの社会に対する強い不満と不安からだろう。
しかしそうした昨今の社会の暗雲たる情勢に対して、目の前の艶やかな女性たちや煌びやかなシャンデリアを映し出すガラス窓は皮肉なほどに派手に輝いて見える。銀座が人々を惹きつけるのも、そうした鬱屈した雰囲気から逃げ出したい人々にとっての逃避場所となっているからなのかもしれない。
八幡は頭を振った。ここがそういう逃避場所ならば、自分達もこんな暗い話題を口にするべきで無い……。
「鉱山さんって、銀座にもよく来られんですか」
「6丁目は飯が美味いからなぁ。高いこと以外欠点なしだ」
「じゃあ流行りのフランス菓子とかも……?」
もったいぶった言葉に鉱山が睨みを利かせた。
「お前それ食わないと思って聞いてんだろ?舐めんな。俺は筑豊の爺さんと違ってまだ若いんだ。甘いものだっていくらでも食えるね……」
八幡は頬を掻いた。
「貴方のような方が若いと仰ったら僕は嬰児になってしまいますね。”若々しい”のは分かりますが……」
「俺から見りゃ実際ガキだね……あぁ、おじさんと一緒にカフェーでも行くか?大阪娘にでも揉まれたら、八幡君も垢が落ちて大人になれるかもしれないからなぁ」
鉱山は人の悪い顔をして八幡の顔を覗き込んだ。嫌なことを言う大人だ……八幡は眉根を寄せて鉱山に苦笑する。
関東大震災で打撃を受けた銀座にはあちこちに空き家ができ、その隙間に入ってきたのが、震災の被害を受けなかった大阪から進出してきたカフェー群だ。彼らはいわゆるアメリカ式料亭とでもいうべきもの──少なくとも八幡はそう思っている──だが、大阪出身の話の上手く気乗りも良い女性たちが中々際どい服で接客するというので、東京の堅苦しい料亭文化に飽きたサラリーマンや文筆家を引き寄せ非常に繁盛していた。一方でそのカフェー文化に低俗だという批判がないわけでもない。
大人数で騒ぐことよりも、一人で静かに考えることを好む八幡である。金を払ってまで赤の他人と話す店は、正直好きでない。
「ごめんなさい。僕はそういうお店、好きではありませんから、どこか落ち着いた喫茶店に案内してほしいです」
「あぁ、あぁ!箱入りのお坊ちゃんには女の子の相手なんて難しいだろうからなぁ。おじさんは優しいから、お望みの店に連れてってやるよ」
まいった顔の八幡を見て満足したように笑うと、鉱山は小さな看板の立ち並ぶ静かな路地に入っていった。
鉱山が連れてきた喫茶店は路地の隙間にある階段を降りた先に位置していた。壁には年季の入ったような赤いレンガが積まれ、吊るされたガラスのランプが、ニスで磨かれ美しいキャラメル色に輝く西欧式の机に、温かな光を落としている。外は昼食明けの喧騒が未だ止まないというのに、店内は夜の静けさを保っている。
店は西欧料理が中心らしい。席に座った二人へ店主がぶっきらぼうに差し出したメニュー表を八幡が読み込んでいると、隣で鉱山がソーダ水とビーフステーキを頼んだ。八幡も紅茶とサンドイッチを頼んでメニュー表を返す。店主は引き返して店の奥へ消えていった。
数分後に運ばれてきた紅茶に、ピッチャーのミルクを入れるとたちまちに飴色に染まる。幾度か吐息で冷ましてから口に含むと、紅茶は荷物を抱え疲れた八幡の心身を癒すように染み渡った。街路の風に吹かれた身体が温まっていく。
カップをソーサーに置くと、水紋が緩やかに反射した。八幡は一息つくと、鉱山に世間話を振る。
「銀座のカフェといったら貴方も交詢社の方に行くんですか?」
財界有数の倶楽部──いわゆる社交場の一つである交詢社の建物の1階に位置するカフェは、八幡もしばしば聞いたことがあるほど有名な店であった。
交詢社は福沢諭吉の言葉が発端となって作られた倶楽部である。財界人同士の交流を図り、経営や社会事業にその関係を生かすというのが名目であった。同じ倶楽部界の巨頭ではあるが、政界にさえその影響力を持つと噂される工業倶楽部などとは異なり、交詢社は専ら福澤の影響を受けた三田系財界人の遊び場と化しており、その社内には玉突き台や囲碁台のような遊技場が備えられている。しかし、そうした金を持った遊び人が集まる場所にできるカフェーだ。その羽振りの良さ、当然伊達では無い。豪華絢爛な内装に加え、名だたる文豪も遊びに来るということで世俗の雑誌を賑わしていた。
筑豊炭田、ひいては北九州の炭鉱たち共通に──色好みの三井鉱山、三池炭鉱のことだ。美女が集まるような店を知らないわけが無いだろうと思って聞いたのだが、鉱山の反応は八幡の予想に反して苦々しげであった。
仰いでいたソーダ水を置くと、ぶっきらぼうに答える。
「あそこは好きじゃねぇ……慶應閥の巣窟の下にある上に、馬鹿みてぇな額のチップを払わされる!女の顔と内装の良いのだけが取り柄だ」
「あぁ、なるほど……」
八幡は意外に思ったが、その説明を聞くと鉱山の反応にも腑に落ちた。
三井財閥内の学閥争いにうんざりさせられているであろう鉱山には、三田系の集まる交詢社は実家のいざこざを連想させて落ち着かない場所だろう。
加えて店員にチップを払うなどという概念は、人件費を忌み嫌う彼にとって苦痛の行為に違いない。料亭の宴会で芸妓に大枚をばら撒くのと何が違うのか、カフェーの内情を知らない八幡にはよく分からないが、所違えば感覚も異なるのだろう。
八幡は再び紅茶に口をつけた。鉱山も黙ってあらぬ方向を見つめている。
再びカップがソーサーに置かれた。白磁の器は静かな地下空間に透き通るような音を響かせる。
「先生、元気そうでしたか?」
鉱山は聞くや否や、厳しい顔で八幡を睨んだ。
「なわけねぇだろ。自分で押し潰しておいてよく言えるな」
「……」
八幡は目を伏せた。何とも言い難い表情をしている。もの悲しげだとも、あるいは逆に無感情とも取れるような顔である。少しして顔を上げると、相変わらずの平坦な顔で言葉を続けた。
「そうですか……しかし、そうでしょうね。貴方がた三井が先生を買収した時には、彼は九基もあった高炉のうちたったの一基分の高炉しか運転を維持できていませんでしたし、改革に際して貴方は経営陣から田中製鉄所の者をほとんど叩き出して三井鉱山の者に据え代えたでしょう。あれを見て……先生はもう到底駄目かもしれないと思ってました」
かなり冷徹な評価だ。八幡にはひどく現実主義的な一面があり、特に苦境においてはそれが色濃くなる。鉱山は首を捻って苦笑した。
「生意気な生徒だな!往年の先生に対して不敬すぎる評価だ」
「今の僕はもう”釜石製鉄所の生徒”ではありませんよ。”三井鉱山”さん……」
顔色一つ変えず言い放たれたその冷淡な言葉に、鉱山の眉が少し上がる。
「昔の僕が生徒であっただけで……それは現在の僕と地続きですが、少なくとも彼との関係性は間違いなく、そして全く、当時とは別物です」
八幡の顔は変わらず無表情だ。しかしその言葉はひどく真剣である。
「話を戻しますが……貴方が役員を入れ替えて”釜石製鉄所”を骨抜きにしたのは、貴方が主導して北炭から引き離した輪西と合併させるからだと思っていたんです。元々先生は夕張炭で輪西の親の北炭と深いつながりがありますから」
輪西──北海道の輪西製鉄所は、三井系の直径企業では無い。あくまで鉱山の傍系に位置する北海道炭礦汽船の息子だ。しかし大正13年、北炭の大株主である三井鉱山が、経営を悪化させていた輪西を北炭の家から切り離して以降、彼が輪西の面倒を見るようになっていた。契約上は輪西の面倒を見ていたのは、北炭、日本製鋼所(輪西と同じく北炭の家系。年代的には兄に当たる)との三人で……ということになっているが、当の二人は第一次世界大戦以降の不況を正面に喰らって自身の身に精一杯であったから、実質的には鉱山が一人で輪西の経営改革を取り仕切っていたのだ。
「フン!あぁ、”三井の手によって夕張炭を釜石に、釜石から鉄鉱石の不足しがちな輪西に鉄鉱石を送れば双方相有利だろう”……」
鉱山の言葉に今度は八幡が目を細めた。その表現は……。
「日経のやつもよく書いてくれる。えぇ?どうも購買して下さって、ありがたい限りですよ。あれもうちの親類なんですからねぇ」
肩をすくめ、冗談めかした顔でとぼけると、鉱山はそれを笑い飛ばした。八幡は苦笑や呆れを含んだような、片頬の口角や眉尻を歪ませたような顔でそれを眺める。
「その様子だと、輪西との合併はなさらないんですね……」
「してほしいか?」
鉱山は片眉を上げて聞いた。八幡の顔色が厳しくなる。
「……」
しばし目線を落として紅茶の縁を眺めていた八幡だが、訝しむような目で再び鉱山に視線を投げかけた。
「本気ですか?それはそれで輪西が心配です。彼のネックは鉄鉱石方面の原料費にあるのでしょう、釜石の鉄鉱石の利用ができないだなんて輪西にとって釜石の存在は……」
無意味だ、とでも言おうとする八幡を、鉱山は忌々しげに鼻で笑った。
「そりゃありがたい心配だ。だが、釜石の鉄鉱石は全部釜石のもんだぜ。輪西には大陸の鉄鉱石で間に合わせてもらう」
八幡は首を捻って、眉根を寄せる。
「輪西は二の次とでも言うんですか?それでは日本製鋼所の時と同じだ。また彼は置いていかれる……」
珍しく語気を強めた八幡に鉱山は驚いた顔で八幡を見つめた。
「なんだよ、そんなに輪西が心配か?お前そんな仲良かったかよ?」
「そもそもあの兄弟の建設理由の一つは、僕のところに北海道の鉄鉱石を運ぶのが不採算だったからでしょう」
八幡は小さなため息をついて言葉を継ぐ。
「加えて北海道での製鉄所構想は、当初東洋製鉄の雨宮敬次郎が抱いていたことです。井上角五郎も鉄道国有化問題と彼の助けなしでは到底北炭の株主や国を動かすことはできなかった……いわば輪西や日本製鋼所が僕の弟分の……東洋製鉄戸畑製鉄所の兄になっていた可能性も十二分にありました」
輪西製鉄所の親である北炭は、元々幌内炭鉱の石炭を港に運ぶため作られた鉄道会社であり、”北海道炭礦鉄道”と名乗っていたが、国による鉄道国有化を受けて”北海道炭礦汽船会社”へと社名を変更していた。国有化に際して国から千万円余りの買収金額を受け取った井上角五郎は、一部の株主からの批判を受けながらも、以前から抱いていた製鉄所建設計画を推し進めた。それを助けたのが彼の盟友の雨宮敬次郎だ。雨宮自身も、井上と同じく製鉄所の経営に熱意を燃やす同志であり、八幡製鉄所の建設の前後には、自身の東洋製鉄による北海道、九州、新潟、岩手の4カ所による製鉄所の構想を抱いていた。
「勝手に親戚面して同情してるってわけか?」
口角を上げる鉱山の冷やかしにも、八幡は釘を刺すように言葉を続ける。
「それに輪西における砂鉄からの製鉄技術を大成させた江藤捨三君は……釜石先生のところで一年の修身を経た後に、僕の建設計画に参加した技術者です。最も彼は僕の製鉄科長だったのを、外国人技師との衝突の末に……ちょうど僕の開始式の翌年に退官していたのですが……彼が北炭で素晴らしい職を得たことは僕としても嬉しい話でした」
江藤のことを語る八幡がどこか苦い顔をしているのは、すでにその彼が北炭において不遇の位置にいることからくるのだろう。江藤は輪西、北海道製鉄の取締役であったが、日本製鋼所の経営失敗から取締役を退任していたのだ。八幡の言葉を聞きながら、鉱山はソーダ水を口に含んだ。
「勝手に同情している……と、言われれば、たしかに貴方の言う通り。ですが、現在の彼の不遇は……一時は呉と比べられていた僕にとっては他人事とは思えません」
「そうかよ、俺はてっきり釜石の優遇策を聞いたらお前が喜ぶもんだと思っていたがねぇ」
それを聞いて、八幡は絶妙な顔で目を泳がせた。輪西の鉄鉱石面における冷遇は、皮肉にも、三井鉱山の釜石製鉄所への注力ぶりが伺える話でもあった。
「……」
短くため息をついて目線を戻す。
「さっき私は元気そう”だった”か、と聞きましたが、質問を変えます……その様子だと、先生、随分元気に”なった”んですね?」
「お陰様でな!全く……俺がアイツのケツ叩くためにどんだけ言葉を選んだか……」
鉱山は眉間を揉んだ。人を操る術には長けている男だが、さすがに長きに渡る経営難、絶望的状況の続いていた釜石に火をつけるのには骨随分を折ったのだろう。
「貴方がそんなに滅入っただなんて……先生、本当に元気を無くしていたんですね」
「はぁ……本当に、な!」
元気の無い釜石など、八幡には到底想像できない。八幡が開始式に失敗した時だって、釜石は世間に対する怒りでやる気に満ちていたのだ。
「しかし製鉄合同に先生じゃなくて貴方が来たのは……」
「なんだよ?不思議なことなんてあるか?釜石も俺もトップは牧田だ。同じ意見を言うならどっちだって構わないだろ」
鉱山は身を乗り出した。
「悪いな八幡、お前の先生はもう俺の部下なんだ!俺の製鉄所に気安く会えると思ってもらっちゃ困る。会いたいなら公務休んで釜石まで会いに行ってこい」
嘲笑いながら言い放った鉱山の言葉は、まさしく喧嘩腰とでもいうべきものだ。八幡は一瞬驚いたような表情を見せたが、しかし、それと同時にどこか微笑ましく思える……。困ったように頬を緩ませる八幡の表情に鉱山は拍子抜けした。
なつかしい、三池さんのこの顔と喧嘩の売り方、僕は何度も見たことがある……。
「あぁ、やっぱり貴方が釜石先生を買収して下さって……きっと正解でしたね」
八幡は昔を思い出すように目線を落とした。
釜石と三池は本当によくケンカしていたが、ふっかけるのは大抵三池だった。八幡は二人が取っ組み合うたびに仲裁役を呼びに行ったものだ。
果たして彼らは今でも喧嘩するのだろうか。いや、落ち込んでいた釜石に火をつけたというのも、あるいは三池が、かつてのごとく釜石に喧嘩を売ったからこそできたのかもしれない……。
「お二人とも似ていますから。いつでも楽観的で、喧嘩好きで……それに話好きだから、余計なことまで言って喧嘩になる……」
喧嘩をする割には気の合うところがある二人だと、八幡はいつも思っていた。あっけらかんとしていて、お互い殴られたことを後に引きずらないものだ。それに三池は新し物好きで、官営出身のエリートであったことも相まってか、研究家肌なところがある。二人とも外向的な性格で話好きな上に知識量に関してもある程度話が合うから、自然と仲も良くなるだろう。
人間関係の妙に疎かった昔の八幡は、喧嘩する割によく話をしている二人を見て不思議に思ったものだ。
鉱山はどこか嬉しそうな八幡に、不気味だとでも言わんばかり、顔を歪ませる。
「お前な……クソッ余裕ぶりやがって。筑豊の嫌なとこばかり引き継いだやつだよ」
八幡は苦笑して紅茶に口をつけた。
確かに、筑豊の清濁併せ呑む鷹揚な性格は、八幡の他人や世相に淡白な性格に似ているところがある。しかし、筑豊のその性格が政治を利用して立身出世するために育まれたものであるのに対して、八幡の性格は政治に利用される側として育まれたものだ。正反対ではあるが、その筑豊の政治闘争にも利用されてきた八幡である。養父の性格は裏表にして引き継がれたと言ってもいいのだろう。
紅茶を置くと、穏やかな笑顔で鉱山に話しかける。
「はは……昔はいつでも子ども扱いだったのに……貴方も先の大戦が終わって以降、すっかり僕にもそういう憎まれ口を叩いてくれるようになってくれましたね。もしかして……僕が三池炭鉱の石炭を使わなくなったから、怒っていらっしゃるんでしょうか?」
「どんだけ俺の心が狭いと思ってんだ?だがあながち間違いでもないかもな……」
三池は八幡の冷やかしを鼻で笑うと、再び不敵に口角を上げた。
「今のお前はもう俺の商売敵だ。容赦する理由も可愛がってやる理由も無いんでね」
「商売敵……製鉄業者としてのですか?嬉しい限りです。やっぱり釜石先生と組む方はそうでないと……」
年長者の厳しい言葉に、八幡は目を閉じて喜びを噛み締めている。
鉱山にはもはや八幡の反応が理解できず、困惑する他にない。肩を落としてうんざりとした様子だ。
「怖ぇよ。お前さっきから……本気で言ってんのか?普通は嫉妬だとか怒りだとか、少なくとも反抗心くらいは湧くだろ!」
「あ、その反応も釜石先生そっくりですね。開始式の後、先生、いつも僕に反抗心を持つべきだって言ってました」
「それで結局持ててないってか?不孝な生徒だよ本当に」
楽しげな八幡の目線を避けるように、鉱山はソーダ水を仰ぐ。
八幡が再び口を開こうとすると、店の後ろから靴音が響いてきた。二人の頼んだ食事が運ばれてきたのである。