ロンドンでコーヒーを

欧米出張時代の米山が池田にコーヒーを淹れる小説。全体的に甘すぎる。池田はこんなこと言うかな……。


 今日のロンドンは曇りだ。多分明日もそうだろう。

 三井銀行のロンドン出店の検討をつけに、との名目で欧米の銀行を視察して報告する。それが池田を含む三人の三井銀行員に命じられた仕事だった。日本の銀行業は発足したばかりで、経営方法や預金の管理方法についてまだまだ未発達な点が多い。先進国である欧州の銀行を巡ってその実態を研究するために、行員の中から英語が堪能でなおかつ頭の切れる人間を三人選りすぐって、海の向こうへ銀行業留学という訳だ。
 アメリカからイギリス、そしてドイツにフランスへ……欧米の各地を巡り、三人それぞれ別の銀行で学ぶ。時に合流して知見を話し合い、報告書の内容を練り、3ヶ月の時も怒涛の忙しさで光陰の如く過ぎている。錦のように鮮やかだった葉の色は消え去り、季節は冬の半ばをようやくすぎた頃になった。

 池田はロンドンのアパートにいた。先にヨーロッパから上がってきていた池田と米山が昨日の夜に合流し、もう一人の留学生、丹幸馬を待っているところである。
 元から自分のことに関して几帳面で、人一倍体に気を使っている池田の朝は早い。暗い雲の向こうに陽の光の気配がさした頃には既に起き、鼠色の厚い天蓋が白ける頃には身支度を済ませ着替えていた。部屋の丸テーブルの傍、椅子に座りフロントからとってきた英字新聞を読んでいる。一方で、同居人である米山は未だベッドの中で微睡んでいるようだった。池田も起こすべきか迷ったが、長い船旅をこえてやってきた相手の疲労を考えると、休みなのだから寝させるべきかと思案してできるだけ静かに過ごしていたのだ。
 池田が新たなページをめくろうとした際に、ベッドからシーツの擦れる音が聞こえた。どうやら相方が目覚めたらしい。ベッドの上で頭を抱え、うずくまっている。
「やぁ、おはよう」
 池田は米山に声をかけると、彼はのっそりと顔を上げて池田を一瞥し寝起きの淀んだ顔のまま返事をした。
「ああ、う……うん」
 米山は愛想と眉目秀麗で知られた男だ。目鼻立ちの整った凛々しい顔から「三井銀行の役者」だと謳われているその男も、寝起きの姿は子供同然のようであり、池田は思わずからかってしまった。
「色男も寝起きはただの人だ」
 池田の言葉に米山は苦笑して応える。
「やっぱり水を滴らせなくちゃだめだね……」
 そう言って、彼はすぐにベッドから立ち上がり部屋に備え付けられた洗面所へ向かって行った。その背中を見て、池田は朝からよくうまい返しができるものだと感心した。自分なら、間違いなくめんどくさそうに相手を睨むだけだろうな。機転の効く男だと感心する。

 池田も米山のことは視察の前から上司や同僚からその噂を聞いて知っていた。最初は彼をよく知らない同僚たちと同じように、英語の話せる軽薄才子だろうと思っていたが、旅の中で話すうちにその印象は変わりつつあった。彼にとって世辞は本気で称賛しているつもりで言っているのだと。他人を喜ばせようと努力することが彼にとっての人生哲学であり、宴会や会食でも自ら積極的に話を振り、時には落語や吟遊などの芸も洒脱にこなす。他人に愛嬌を振りまくのも、彼にとっては他人に取りいる道具ではなく本心の一端なのだろう。池田はつくづく、彼の性格は信じられない程の明るさでできているものだとある種の尊敬の念をもっていた。人見知りで広い付き合いが苦手な自分を押し込んで、仕事の宴会や行事に努めている自分とは根本的に違う生き物である。
 
 池田が自分の社交性のなさを鼻で笑っていると、その姿を意外そうに見つめていた米山と目があった。思案に夢中で、洗面所から出てきていたことに気がつかなったのだ。思わずしまったと自分の眉間を押さえる。
「やっぱり君の笑顔はいい」
 米山はいつもの男前な笑顔で言ってくれるが、池田は閉口する。何がいいのか分からない。そもそも今のはいい意味での笑いではない……などと言い返そうと思ったが心に留めた。米山という男はどんな話題もいい方向に持っていこうとする男だ。それに日常的雑談で、口数の多い社交的な彼に勝てる気はしない。そんな池田の苦虫を噛んだ顔も他所に、米山は着替えをとって洗面所に戻っていった……が、彼は突然何かを思い出したように池田を見た。
「あ、よければコーヒーでも淹れようか」
「なんだいきなり……ウェイターにでもなったのか?」
 突然の誘いに驚く池田に対し、米山の顔はにこやかだ。
「ドイツでイタリアのコーヒー用品の一式を買ったんだよ。家で使うために!せっかくだから使ってみたいんだ。どうせ今日は丹君を待つだけでお互い観光以外に用事がないだろう?」
 楽しげに話す米山に対し、池田は冷静に聞き返す。
「豆はどうするんだ?それに淹れ方も……知っているのか?」
「それは平気さ。昨日のうちにホテルの人にもらったんだよ。豆も淹れ方のメモも!という訳で……準備は万全だから、淹れてもいいかな?」
 満面に微笑む米山の純粋な頼みに断れる人間はそういないだろう。というか昨日から準備してる時点で淹れる気に満ち溢れているし、相当断りにくい。池田は苦笑した。
「よくもまぁ豆をもらえたものだな……」
 池田の渋い了承に米山は百点回答のようなウインクをして去っていった。
 どうしてそんなにも人を巻き込むのが得意なのか。こういった愛嬌と行動力を見るたびに自分とは違うのだと感じざるを得ない。池田はため息をつく。すると、洗面所の方から張りのある声がドア越しにくぐもって聞こえてきた。
「すまないが!手が空いていたら部屋のストーブでお湯の準備をしてくれないか?」

 米山が廊下に置いたトランクを持って洗面所から戻ると、白いストーブの上には小さな赤いやかんが静かに佇んでいた。池田はすでに椅子に戻り、新聞に目を通している。顔を上げて米山を一瞥すると、ニヤリと笑った。
「いつもの男前が戻ったようで何よりだな」
「これから大切な仕事があるからね」
「仕事?」
 米山は大真面目な素振りで訝しむ池田の顔を見た。
「今の僕は君にコーヒーを淹れるためのバリスタだから!」
 そう宣言してシャツの腕を捲り上げると、トランクの中から手際よく道具が入った箱を取り出してゆく。箱からテーブルに並べられた道具たちは、鈍く光る金属の取手と黒く小さなボウルのついた木箱や小さな虫取り網のような器具など、どれも独特の様相を呈していた。池田もかつて留学していた時に、どこかの家か店でそれらの器具をみたことがあったが、こんなに近くで見るのは初めてだ。それらを組み立てて準備する米山の得意そうな顔に、池田はちくりと苦言を呈する。
「バリスタが客に湯を沸かせるか?」
 どうもこういう時には他人をからかいたくなる性分なのだ。
「just yourself……」
「コーヒーに湯はmustだろ……」
 バリスタは痛いところをつかれたとばかりに思わず肩をすくめた。
 厨房からもらってきたという豆を取り出し、先ほどの黒いボウルの中に入れて蓋を閉める。米山がボウル上部の取手をもって挽き始めると、コーヒーの陰影を持った芳しい香りが一層膨らんでゆくように漂った。豆の擦り潰れる音がくぐもって響く。豆はかなり硬いのか、時折米山の腕が止まってはバリっと威勢の良い音を響かせてまた動き出す。眉間に微かに皺がより、手の甲にうっすらと血管が浮かんでいた。
「随分大変そうじゃないか」
「やっぱり……乾物だから……本当に難いよ!豆を砕く刃が折れないか心配だ」
 バリスタは参ったと言うようにまた肩をすくめる。大の大人が腕に力を入れて小さな機械を必死に回しているのは、どうも滑稽でたまらない。
「その音を聞いていると君の骨が折れそうでたまらないな……」
「心配しないで!僕の腕なら、折れても……すぐに治るからね!」
 いや、二三ヶ月はすぐじゃあ無いだろう……と客は呆れてしまった。米山という男は真面目な勤勉家のように見えて、いきなり妙な冗談を言う。そういう、案外人間味のある差異が上司に好かれるのだろうな……と池田は思った。愛想の悪い自分は中上川以外の上司にどうもあまり好まれ難い。この出張から帰ればおそらく上司連中に宴会へ誘われるだろうが、米山がいればおおむねこの男が中心になって上司と喋り倒してくれるだろう。自分はそれを聞いて適当に相槌を打っていればいい……。
「君の腕が折れたら君の分まで俺たち二人で書かなくちゃいけなくなるんだが?」
「平気さ。全部……この頭で覚えて……日本に帰ってから、書記に口述するから」
 米山は必死に豆を弾きながら答えた。池田は思わず笑ってしまう。
「まぁ……君ならそれもできるだろうな」
 一時間喋ってなお酸欠にならなそうな男であるし、学業を大成させた男なら、記憶力も折り紙付きだろう。
 ようやく豆を挽き終えた米山は、ボウルの下の木箱を開けて確認する。中の黒い粉は砂鉄の山のようにも見えた。一気にコーヒーの香りが辺りにふくらむ。机の上を片付け、道具一式の中にあったであろう小ぶりなポッドと小さなコーヒーカップ数個を並べる。木箱を取り出して、テーブルの隅においていた小さな手網の中へ入れると、カップの上にかざした。
「ケトルとって!」
「おぉ、おお……」
 相方の急かす声に面食らいながらも、ストーブの上のケトルを手渡す。受け取った米山は深呼吸をして真剣な面持ちでケトルを握り直した。
 一湯目は粉に湯が染み渡るほど。入れて二十秒蒸らす。茶色がかった粉が黒くなっていく。
 二湯目は入れる前にカップからポッドの上へと移動する。ゆっくり、まっすぐに降り注ぐ湯を受けて、下の粉が薄茶色の泡とともにふくらむ。湯が滴り落ちるにつれてふくらんだ泡も少しずつしぼんでゆく。緩やかな湯気がコーヒーの香りをまとって辺りへ広がる。
 三湯目は内側から外側へ円を書くように、それを1往復させる。しぼんでいた泡がまた膨らむ。池田は手網から滴る湯の色が思っていたよりも薄いのに驚いた。コーヒーはカップに入っているとかなり黒く見えるが、一滴はそこまで色濃くないらしい。
 四湯目は花弁を書くように、幾つかの円を描いて湯を注ぐ。口の太いケトルを操るのは相当体力を使うのだろう、米山は時折険しい顔をしながらも、うまく湯を注いだ。

 なんとも不思議な空間だと池田は思った。酷く時が長く感じられる。コーヒーの緩やかな湯気、水が滴り落ちる密かな音、そしてこの男が黙って真剣に集中しているのは……たった二三分程の時間を数倍味わい深いものにしている気がした。これはきっと彼の持つ、ただの愛嬌君子では無い、もう一面が……普段の彼の印象とは異なるその緩急が、なお一層その意外なる一面を際立てているのだろう。
 ポッドの中には既に十分な量のコーヒーが溜まっている。米山は頃合を見ると、粉の入った手網を一湯目で使ったコーヒーカップに入れた。そしてポッドの手を持つと、緩やかにぐるぐると回し始めた。
「こうすると中の味が混ざって均一になるから……」
 その子どもに言って聞かすような話し方に、池田はこそばゆいような心地がした。本当にこの男は多面的でキャラクターに落ち着きがない。
「親みたいな言い方をしてくれるが、君には確かもうお子さんがいるんだったな」
「えぇ!?君にそんな話したかな?よく知ってるね」
 相方は驚きながらも、冷静にコーヒーカップを手に取って湯を注いでゆく。
「朝吹さんは随分君のことを喧伝してたからな」
 池田がからかうように応えると、米山は恥ずかしそうに首をひねった。
「ああ……うん、本当不思議なんだよ。朝吹さんは随分僕のこと買ってくれてる……」
「そりゃ上司は皆お前のことが好きだろう。器量も顔も世辞もいいから……」
 身を前にしてそう言うと、相方は困ったように肩を竦めた。
「上司は……確かに僕は幸運だと思うよ。でも同僚とは……」
「支店は田舎者ばかりだし、本店は慶応の連中ばかりだし?」
 池田の収まらない冷やかしに、米山も少し眉根を寄せる。
「別に……そんな人を区別するような言い方はしたくない。そうじゃなくて……」
「……」
 ポッドの手が止まった。言い過ぎたかなと池田はバツの悪い気がして身を起こした。池田も米山の風評については良いものも悪いものも同時に知っていた。或いは愛嬌君子であり、他方は軽薄才子であった。慶應の人間の中にはともすればバンカラ節で一本気を好む者も少なくない。そういった人間からすれば、米山のお世辞や愛嬌をふりすぎるような性格が疎まれるのは想像出来た。それに支店においても、米山の常に洋装を着込み英語を操るようなハイカラぶりは、周りの前垂れ連中から遠慮されるであろうこともまた同様だった。
「はぁ、あぁもう、とにかく!」
 米山は気を取り直すように、池田の前にコーヒーカップを出す。白地に青い文様の入ったカップと黒いコーヒーは美しく様になる姿だ。池田も大人しく一礼してそれを受け取った。
「お待たせ致しました!いやぁこれでようやくコーヒーが飲める。淹れるって大変な事だね」
 うんうんと自分に言い聞かせるかのように話す米山を尻目に、池田はコーヒーに口をつけた。米山もすぐにコーヒーを口に運ぶ。
「……」
「……」
「うん……」
「あー……」
 コーヒーの湯気は、静かに空へと消えていく。
 一瞬の沈黙のうち、どちらが先とも知れず、なんとも言い難い声がでた。お互い静かに顔を見合わせる。そしてお互い、困惑したような、絶妙な顔をしていた。
 不味くは……無いのだ。酸っぱすぎるだとか、苦すぎるということは無いが、透き通る喉越しがある訳でもない、引っかかる感じがどうも──
「フッ……」
 吹き出す池田に米山は眉尻を下げた。期待に添えなかったのでは無いかという申し訳なさがその顔に出ていた。池田はその顔に尚一層可笑しく感じてしまった。
「米山……君はコーヒーを入れる前に道具を洗ったのか?」
「……え!」
 米山はてっきり池田からキツい皮肉でも浴びせられるものだと思っていたのか、一驚した後……困惑したような、恥ずかしそうな顔でみるみる赤くなった。
「あー!あぁ……えっと、それは本当に……すまないというか」
 しどろもどろに応えるバリスタを尻目に、客は一気にコーヒーを飲み干してカップを置いた。
「いやぁ……素朴な味わいと言うべきかな……特徴的なコーヒーを淹れるバリスタさんだ」
 池田は朗らかに感想を言うが、米山はその言葉に安堵すればいいのか、はにかみながらひきつった顔で言葉を出せずにいる。
「なんだ今度は青くなって……別に俺は味にうるさい訳でもないし、多少ホコリが混じってたって気にするほど繊細でもない」
 はっきりと言い切る言葉に米山もようやく胸を落ち着けた。とはいえ昔から思いつくとすぐ性急になって事を欠く自分の短所がまた出てしまったのかと思うと、自身げになっていた過去の自分の未熟さ、恥ずかしさはさらに色濃くなっていった。克服しなければならない癖だと思っているのに、こうして気を抜くとすぐにこの悪癖は顔を出すのだ。コーヒーの苦味が一層自分の心に沈殿してゆく。
 その米山の落ち込む顔に、池田は意外に思った。快活な楽天家に見えて、案外悩む時にはそんな悲嘆な顔をする男だったのかと。この男は本当に表情がよく変わるものだ。見ていて面白いと言ったら怒るかもしれないが、なんとなく、世話好きな朝吹が彼を放っておかない理由もここなのだろうと感じた。現に今、自分は彼をこの悲嘆な顔のまま放っておけなくなっている。
 池田は改まって声をかけた。
「米山。さっきの話だが……」
 米山は顔を上げて池田を見る。
「同僚と上手くいかないのも、宜なることだと思う」
 米山は困惑するように眉尻を下げた。池田は真面目な顔で言葉を続ける。
「君は入社したばかりだから、周りの人間もよく君のことを知らない。それなのに、欧米視察の一団に君が呼ばれたのだから、周りの人間としては鼻につく……」
 今度は黙って目を伏せる米山に、池田は言葉を続ける。
「だから問題は……君のキャラクターよりも外聞の方がよく知られているから、浮いていることだと」
 池田は息を吸った。色々な面を持つ人間というものは、自分の見せ方、他人からどう思われるかというものをよく考えているからこそ出来上がるのかもしれない。自分が見ている米山が、彼の本性か、あるいは意識して演じているものなのかは知らないが……どちらにせよ、自分は今日の彼を見てなお一層面白いやつだと思ったのだ。
「これから君がこの銀行に居続けるかは知らないが……誰に会ったって今日の君らしく振る舞えばいいと思う。君は面白いやつなんだ、君のキャラクターがもっとよく知られれば、きっと好かれるようになる。多少失敗することがあっても……それが人間味になるさ」
 米山は池田をまじまじと見た。驚くというよりも、ハッとしたような、意外なものを見たいうその顔に池田は苦笑する。
「なんだ……俺がただ冷やかすだけの男だと思ったか?」
 いつもの冷やかしを前に、米山はようやく頬を緩ませた。
「いや……はは、なんて言えばいいか……君に会う前は……池田成彬という人は、もっとずっと、気難しい人だと思っていたから……」
「聞いてたよりずっとfriendlyな男だろ?」
 米山は肩を揺らして苦笑した。
「frie……ではない、かも、君はちょっと……からかい癖があるから」
「俺なりの愛嬌なんだがなぁ……」
 池田は口を尖らせて反論する。米山は困ったように笑ってカップを置いた。
「はぁ……でも君は……良い人って言うと、違うのかもしれないけど……でも僕は君のこと、好きな人だと思ったんだ」
 想像とはまた違った方向に飛んでいった米山の言葉に、池田は面食らって、そして困惑して、眉間を押さえた。この台詞は……どう受け取ればいいのだろうか?
「それは……俺はなんて応えればいいんだ?」
「はは……照れないで!I like youってことさ!You, tooって返してくれたら嬉しいなぁ」
 久しぶりに他人からからかわれる感覚というものを思い出し、池田は思わず閉口する。楽しそうな米山を前に、彼は足を組みながら椅子にふんぞり返った。
「フン!」
 盛大に鼻を鳴らしてふてぶてしい顔をする池田に、米山は微笑ましく思って笑った。
「うわ!やっぱり君は気難しいね!」
 
 この旅に出るまでは、お互い気の合わない人間かもしれないと思っていたが、話してみれば案外気のあうものだ。
 白けていた空に青い隙間ができ、朗らかな陽の光が窓辺にさした。外にはすでに目覚めた鳥たちが集まって鳴き交わしている。コーヒーのゆるやかな湯気は、あたたかな春の気配を呼ぶように空へと昇っていった。